文学幼い頃から本は好きだった。「大草原の小さな家」シリーズの、ハードカバー本が一式ほしくて、 誕生日とクリスマスのプレゼントにそれをリクエストして、 1年かけて買ってもらったこともある。 それ以前から、おもちゃよりは本を買ってもらうことのほうが多かった。 高校生のとき、芥川龍之介に出会った。 いや、もっと前からその作は目にしていたはずである。 でもその中枢をつかんで離さないほどの力を伴って自分の心に飛び込んできたのは、 高校生のときだった。 『歯車』。 「誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?」 その最後の一文が、高校生のわたしを激しく揺さぶった。 はじめは文庫を買って読み、次には全集を図書館で借りていた。 食い入るように読んだ。取り憑かれたようだった。 歯車、河童、暗中問答、枯野抄、蜃気楼、戯作三昧、地獄変、雛、一塊の土・・・ そして「或阿呆の一生」。 秀才として育ち、夏目漱石の絶賛を得て文壇に現れ、 明確で美しい言葉と破綻のない繊細な構造を持った文章でその地位を築き、 教鞭を取り、雑誌を立ち上げ、結婚して三児を儲け、忙しく生きていた彼は、 「敗北」の言葉を遺してわずか35歳で世を去った。 「何か僕の将来に対するただぼんやりした不安」のために。 芥川龍之介の文章はわたしに激しく影響を及ぼした。 それがどんなものだったか、はっきりと言葉にすることはできない。 でも、この世で最も尊敬する作家は芥川龍之介である。 それは高校生時代から、今でも変わることはない。 35歳。 わたしはまだその歳に追いついていない。 35歳までの間にわたしは何を為すことができるだろう。 |